男はラッシュも終わり、すっかり空いた地下鉄に乗り込み窓の外をただ眺めていた。
しばらくすると、ふと自分の後ろに立つ黒いコートの男とガラス越しに目が合った。
男はそのコートの男に見覚えがあった。するとコートの男は口を動かすなくこう言った。
「どうした?また良心の呵責とやらに苛まれているのか?」
男は怒りを露に振り返るとそこには誰も居なかった。
そのまま電車は男の住む街へと着き、男は改札を抜けた。
駅から少し離れ、線路添いの寂れたアパートが男の家だ。
男は灯りも点けずにそのままベッドに横になった。
枕元には笑顔で写るショートカットの女性の写真が時折通過する電車のライトに浮かび上がっていた。