季節は秋、夏には海から吹いていた湿った暖かい風も途絶え、冬の到来を予告するように、気持を小さくする冷やかな風が町を包む。
ある日、私は相変わらずの金の無さに、腹の内に重たいものを抱えていた。
昼下がりの優しい日が入り込む中、おもむろに携帯を手に取り、一人家の中、インターネットでキーワード検索を繰り返していた。
そして、思いつく言葉も尽きてきた時、何故か以前読んだ古代ローマの風俗を扱った書籍を、ふと思い出した。
かの昔ローマでは、男同志、つまりは同性愛が、至上の愛とされていたようなことが、斑に頭をよぎった。
それに連ねて、ここ日本でも、かつては同性愛に対して寛容な文化があったことも思い出された。
怖いもの見たさと、好奇心で、思いつく限りの言葉を打ち込んでいった。
検索結果の中には、いわゆる出会い系サイトが沢山あった。
開いてみると、かなりの人数の書き込みがあるようだった。
試しに自分の地域限定掲示板も覗いてみると、やはり相当数の書き込みがある。
これには正直驚いた。
自分の住む県だけでも、かなりの同性愛者がいるのである。私は今まで生きてきて、一人も会ったことが無い。
私は世界の裏側を見たような気になり、少し得意な気になった。
また、不思議と抵抗感は無かった。
本好きの私は、雑多に読書を重ねる内、異文化に対する寛容さと、好奇心を手に入れていた。
書き込みを一通り読んでいくと、一人の書き込みに目が止まった。「○県○市在住。45歳。10〜20代前半希望。一回30000円払います。鏡 拓也」
のようなことが書いてあった。
記された場所は、私の住む町だった。
だらだらとした毎日に、刺激を求めていた私は、この鏡という男に連絡をしてみたくなった。
またこの時の私には、三万という数字が魅力的だった。
ただ、他の書き込みには金銭譲渡などの旨は無く、純粋に知り合いたいとするものなのに対し、この書き込みだけがそうであるため、鏡拓也のものだけが不気味に映った。