にこり、と依頼人は苦く笑った。殺し屋は口を挟まずにおだやかに話を聞いていた。
『とにかく目にあまるものがあって、さすがの妻もノイローゼ。そんなときに、養子を貰う話がきてね、妻の気分転換になるならって会いにいったんだよ。…運命だったね。あいつも同じでね、葵と桜をすぐにでも引き取りたいって。離れる時間になっても、離れたがらなくて、苦心しました。…内緒ですが、ぼくも同じでね。ぼくら、つらい里親試験にも耐えて、やっと、二人はうちに来た。それからは嵐のような、幸せな毎日でね、何でも与えたくて。かわいがりたくて、笑った顔がかわいくて幸せすぎて。だからかな?…人生の幸せここで使いきっちゃったみたいです。』
『だから、あの子たちの目の前にある壁を壊してあげることしか、今はできない。実家の親兄弟、親戚一同を殺してやって、最後はぼくを失った悲しみってやつを、ついでに家族の胸から殺してください。そうしたら、失って悲しんで、泣いたりなんかしないでしょう?あんた、殺せないもの、ないんだよね?』
殺し屋は笑顔を作った。
『はい』
『あんた、これが殺せるかい?』