「ミューク校長の話し方っておかしいですよね」
みんなで散々議論した結果、『勇者の血』を持っている人が誰だか分かるかもしれない、という答えに辿り着き、図書館へ向かっていた道中、唐突にフラットがそんなことを口にした。
「ああ、確かに、結局男なのか女なのかも分からなかったな」
「どうしてあんな話し方なの?」
ウェドの後ろを歩いていたパールがフラットの横に駆け寄った。
「ミュークさんは実は、一人の人間ではないんです」
「一人の人間ではない?」
「双子ってことか?」
「違いますよ」
フラットが愉快に笑った。
「それじゃあ、どういうこと?」
「多重人格ってこと、違う?」
先頭を歩いていたタクトがフラットに問いかけた。
「あれ?タクト聞いてたの?」
「もちろんさ」
「その通り。実は、ミューク校長は自分の村や学校を守る為に全ての魔術を使えるようにしたんです」
「全ての魔術?」
「はい。でも、ひとつの体で五種類の魔術を習得するなんて不可能なんです。だから、ミューク校長はひとつ体に五つの人間を造ったんです」
「そこまでする必要があったのか?」
「僕には分かりません。でも、『必ずやこの力は役に立つ、いや、この力は今まさに、この瞬間も役に立っているんだ』というのが口癖でした」
今まさに、役に立っている・・・どういうことだ?
なぜかその言葉がタクトの耳から離れなかった。
「すごいなー五つも人格があるのか!」
「五つも人格があったら大変ね。記憶だってまちまちになっちゃうし」
「はい。だから、ミューク校長は人格を小まめに入れ替えて、記憶も均一にしているんです」
「なるほどー、だから、あんな変な話し方なんだな」
ウェドだけは妙に納得している。
「タークト、なーにさっきから考え込んでるの?」
「いや、ちょっと・・・」
言いかけた途端
『タクトよ、聞こえるか?』
「誰?」
『あまり大声を出すな。わたしはお前の心に話しかけている。それに、ウェイトにも会いたいだろう?』
ウェイトだって? 今度は目を閉じ、心の中で問いかけた。
『お前は誰だ?何を知っている?ウェイトはどこだ?』
『質問が多い奴だな。だから、お前はウェイトの前では全てにおいて負けているのだ』
声はタクトの心を揺さぶる。
『さぁ来るんだ。こちら側へ。ルパスへ』