深夜の香りが鼻につく。それと同時に胸がしめつけられ逃れようの無い切なさがこみあげてくる。数ヵ月前まではそれだけだったのに今は耐えがたい悲しさが私を襲って来る… 涙が止まらない あの日の愛しくもあり心の宝箱にしまってある大切な時間はどうしようもない悲しみに変わってしまった。20年前の私達は全く予想しなかったこの未来に向かって時を過ごしてきたのかな 夜の香りはあの日と何も変わっていない…
春。着なれない優等生タイプのスーツを着て私は専門学校の入学式にいた。16歳。中学もろくに行かなかった私にとりあえず両親が見つけてくれた進路だった
仕方ないか…まただるくなったら辞めたらいい…
前向きではない私には不安混じりの面倒臭さしかなかった。その専門学校はやっぱり私の様に中学も行っていない子や訳ありの子が集まっており年齢や通ってくる場所もバラバラで一番遠い所で二時間電車でかかる子もいた。幸い私は自宅から30分もあれば通える場所だった。隣の席にバタバタと慌てながら座る女の子がいた。
斎藤 キョウ そこで私は彼女と出会った。彼女は華奢でスラッとした長身に長いストレートヘアにはっきりとした顔立ちのいわゆる美人で、小柄で決して容姿端麗ではない私とは対照的だった。私の住んでいる町より少し田舎に住んでいるキョウは見た目とは違うサバサバした性格と豪快さが一緒にいて楽しかった。 学校へ通い出して間もなく家に泊まり合う程仲良くなりほとんど一緒に行動していた。
「土曜はキョウん家に泊まってくる」母親は呆れ顔で泊まりにいっておとなしく寝ている訳がないのを解っているのか良い返事はしてくれなかった。かといって反対しても聞くわけがなく行き先を告げるだけマシになったかなと諦め顔に変わり結局は「はいはい」で終わってしまうのだった。
夜10時 駅に向かう バイトで家路に向かう高校生している元同級生達と会っても逆に向かうホームに居る私には声をかけて来なかった。それ程同年代とはかけ離れた見た目と雰囲気が中学生の時よりより一掃私には染み付いていたのかもしれない。
キョウの居る町へ向かう。私の居る町へキョウが来る。
夏までの週末はずっとそんな感じだった