古賀がプロデュースした、山口英夫のニューシングル『二人』は、発売から、二週目にして百万枚を突破してCDの製作工場にプレスの追加発注がされていた。
古賀は十月の柔らかな日差しを受けながら、世田谷の自宅から紺色のメルセデスに乗り込み港区にある録音スタジオに向かった。
スタジオに着いたのは午後二時を過ぎていた。
今日は、これまで五枚のシングルと二枚のアルバムを出している、シンガーソングライターの野沢祥子のサードアルバムのレコーディングである。
古賀は以前に野沢のCDを資料として聴き、彼女には、確かにアーティストとしての素質が充分にあると見込んで、この仕事を引き受けたのであった。