保健室と、優しい痛み。

春歌  2008-12-23投稿
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「ねぇ先生、あたしあとどのくらい生きられるんかな?」
「んー?生きる気があればどんだけでもじゃねーか?」
「…ふぅん。そっか」
保健室の先生はいつもあたしの些細でいて普通なら答えにつまりそうな質問を簡潔にあっさりと答える。
「お前はまた、そういう質問をする」
呆れた口調で先生は校内では禁止のはずのタバコを灰皿に押し付けた。
あたしはベッドから起きる気にもなれず、足で蒲団をめくり上げると小さく呟く。
「だって生き物なんていつ死ぬかわからないじゃん」聞こえないと思ったのにその声は先生にはしっかり届いたようだった。
「そうだよ。だからその時その瞬間を大事に生きなきゃだめなんだ。まあ、そんなことできてるやつはそうそういないけどな」
溜息にも似た、先生の息継ぎ。
「…………」
何も答えずに先生をじっと下から見つめる。
あたしがいつも脈絡もなく発するこういう言葉に一つ一つしっかり考えて答えてくれる、先生のこういうところがあたし好きだ。
あたしのその視線に気付かない振りをして先生は目を閉じて、ついでに手に持っている何かの記録ノートもパタンと閉じた。
「お前まだ授業でないのか?もうどんだけここに居ると思ってんだ」
「知らない」
「知らないってなぁ…」
閉じた目を細く開いてやっとあたしに視線を落とす。「いい加減にしとけよ?」「…だって、ここが一番おもしろい」
「…あのなぁ、君お友達の一人や二人くらいいないのー?余計なお世話かもしれないけど、世間に出てそんなんじゃやってけんぞ」
あたしは少し眉を斜めに吊り上げた。
「ほんと余計なお世話かも」
「授業をさぼってこんなとこにいるやつに何を言われても」
「…む」
だって、仕方ないじゃん。本当に先生といることしか、あたしが学校に来る意味なんてないんだからーー。ふと、言ってはいけないことが頭を過ぎる。

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