「…は?なんの…」
「あたしがこういう気持ちでいたこと!」
今度こそ大きく、彼のその普段は冷静な顔が大きく歪む。
やっぱり…。
そう、あなたは知ってたはずだ。
あたしがあなたを見る目を、あなたと微かに触れるときのほのかな嬉しさを、喋るときの表情を。
「なのに先生は今まで気付かない振りをしてきた…」いつからか先生はあたしと視線を合わせないようになった。
避けるように一定の微妙な距離をおくようになった。二人共いつからかお互いの間にある『何か』を知りながら、口には出さなかった。
あたしもそうしたかった。できることなら、この感情に蓋をしたかった。
でも出来なかった…。
あたしは、先生みたいに大人じゃないから。
「…先生があたしを助けてくれて、すごく嬉しかった。感謝、すごくしてる。でも…最近の感謝は、なんか違う」
始めは『そんなもの』なんて思ってなかった。それに思いたくもなかった。
漫画の読みすぎだよあたし、って軽く自分を叱って済ませたかった。
「でも、気付いちゃった…」
先生は一言も喋らない。もういつもの表情に戻って、あたしを静かに見つめている。
あたしは先生から目を逸らしたい衝動に負けないよう、しっかり足に力を込めて真っ直ぐ先生を見返す。
「好きになっちゃった」
だから。
「先生、付き合ってとか、そんなこと言わないから…もしも許されるなら」
あたしを好きになって…。最後の声は掠れて出なかった。
身体が重くてまともに指も動かせない。
「………」
先生は必死に何か言葉を探してる。
真剣な顔で探してくれる。いつものように、あたしを傷つけまいとして。
そして、自分の『知らんぷり』に罪悪感を抱いた顔で。
でもね、先生、そんな気遣いはいいよ。
だって、この告白をしたのだって、あなたになら傷つけられてもいいって思ったから…。