「は、お前は馬鹿か?この人数相手にどうやって勝つつもりだよ?お前も頭いかれてんじゃねぇ〜のかよ?!」
男達が口々に「こいつやっちまうか?」「そうだな」とか言って盛り上っている。
「うるせ〜よ、あごひげ野郎・・・俺は今非常にムカついているんだ。逃げるなら二秒だけ待ってやるよ」
そんな男達を無視して指を二本立てて見せる。
そんな中、華連はずっと声が出なかった。
まるで、誰かに声を奪われたかのようでいて気持ちの悪い状態ではあったのだが、目の前に立つ男を見て、心は落ち着きを取り戻していた。
目の前に突如として現れた男は、少しだけ目線を華連の方へと向けて『安心しろ』と伝えているようであった。
「はぁ!何言ってんだよ?逃げるのはお前だろ〜が、それにあごひげって何だよ・・・俺のおしゃれを馬鹿にすんじゃねー!」
あごひげは大きく腕を振りかぶって数を数え始めた男に殴りかかった。
しかし、その拳は先ほど立てた指に当たり止った。
その指は先ほどから一秒が過ぎたのだろう。
一本のみであった。
「あと、一秒あったが、時間切れのようだな・・・残念だったな、自分たちの運の無さに嘆きなよ」
言うや否や、颯爽とした表情のまま男達を全員一度に吹き飛ばす。
何もしていないようであった。
ただ、あごひげの拳を払うようにして押し戻しただけだ。
そんな一挙一動作のみで軽々と数人の男達を退けたのだ。
華連は目の前に立つ男を見るようにして、先ほどまで掴まれていた手が離れたのに気付き、一歩後ろへと下がる。
「て、てめぇ」
男達は油断してしまったぜ、というような感じで、決して自分たちが目の前に佇む男よりも弱いとは理解できていないようであった。
そんな中ただ一人、あごひげだけは反応が違っていた。
「な・・なんだよ?こいつ・・おかしいぜ、なんで一本指で止められるんだよ・・化物だ・・」
その自慢の拳を一本指で止められ、尚且つ軽く弾かれただけで自分たちを一度に吹き飛ばすような腕力の持ち主である男を見ながら怯えていた。
まるで猛獣でも見るような目で。
そして出来るだけ離れようと本能で理解したのだろう地面のアスファルトにその身をくねらせながら這うようにして逃げ始めた。