「あ」
由宇君が顔を引っ込めた。
倉庫とフェンスの隙間から、遠くに目をキョロキョロさせている剣土君が見えた。
「サキせんせい、けんとくんがきた!」
「本当だ!ホラ美祢ちゃん、剣土君!」
ひそひそ声で話し掛けても美祢ちゃんはエプロンを握る力を込めるだけだった。
「でもけんとくん、りゅうくんみつけられないかも…」
面白い美祢ちゃんを見ながら微笑する私をよそに、由宇君はツツジの枝の隙間から真っ直ぐ剣土くんを見ていた。
「あ〜、剣土君は木の上が人気の隠れ場所って知らないもんね〜…」
剣土君はブランコや滑り台で遊ぶ他の子をちらりと見ながら、立て掛けてある一輪車(運ぶ方)のウラなどを確認していた。
「あ、流君危ない」
流君が隠れている木の下に、剣土君がやってきた。
たくさん茂る葉っぱに覆われた木なので、剣土君からは角度的に流君が見えないようだった。
しかし、目を凝らせばきっと見えるはずである。
「みつかっちゃうかな…?」
由宇君が呟く。
剣土君は木の中を眺めていて、少しだけ笑った気がした。
不気味だった。
何を。企んでいるのかと。
問いただしたくなるような。赤い唇の端を上げて。
見入る。魅入る。
そしてふと、こっちを見た。
「うわ!」
目が合った、ような気がした。
反射的に顔を引っ込める。
大きなツリ目が、何故か私に畏怖の念を覚えさせた。
倉庫近くまでやってきた剣土君は、倉庫の中には目もくれずに真っ直ぐ倉庫ウラの方へとかけてきた。
「………」
由宇君はそんな剣土君を眺め、ちらりと美祢ちゃんを確認する。
相変わらず私のお腹に顔を埋める彼女を見て、由宇君は覚悟を決めたような表情をした。
「サキせんせい、みね、ちゃんとかくれててよ」
「え?」
2mも離れていない所にいる剣土君がツツジの葉っぱに手をかけようとした時、由宇君は立ち上がった。