ロストクロニクル5―4

五十嵐時  2008-12-24投稿
閲覧数[388] 良い投票[0] 悪い投票[0]

「あれ?『勇者の血』なんて記述どこにもないですよ」
フラットは机いっぱいにいろいろと難しそうな本を広げていた。
「どうしてないの?」
フラットとパールはずっと一緒に、あれでもないこれでもないと本を漁っていたが、タクトは二人の会話についていくができなかった。ウェドに至っては「退屈だ」と言い残し、どこかに行ってしまった。
「ぼくはちょっとウェドを探してくるよ」
パールの「気をつけてね」という声を背にウェドを探しに行った。

「やっぱり外の空気の方がうめぇな」
ウェドは体の中に入った図書館の空気を全て叩き出すように、外の空気を体いっぱいに吸い込んだ。
ウェドが暇そうに玄関口で座っていると、前方から珍しく魔導師以外の図書館の利用客が現れた。
「おっ!久しぶりの普通の人間だな」
ウェドは嬉しくなって思わず「よっ!」と声をかけてしまった。ここに来る魔導師たちは全員、ウェドにとっては取っ付きにくいらしい。
「よっ!お前もこの図書館使うのか?」
「・・・」
ウェドが話しかけた人間はパールやタクトと同じくらいの年齢の少年に見えた。背中には大きな剣が鞘に収められていた。
「お前もパラスを旅してんのか?」
「・・・」
少年は足は止めたものの一言も喋らない。人選ミスをしたようだ。だが、自分から話しかけてしまっただけにこのまま「じゃあな」と言うのも気まずい。だからといって、このまま黙っている訳にもいかない。
「・・・実は俺もな、お前くらいの年の奴らと一緒に旅してんだ」
「それは誰だ?」
いままで無口だった少年は、ウェドが言い終わるとほぼ同時に訊いた。
「やっと声が聞けたな。誰って、訊いてどうする?」
「いや、特に理由は無い」
少年は自分の足元を見つめた。
「ちょっと訊いていいか?」
駄目元で『勇者の血』や『木彫りの不死鳥』について訊いてみようと思ったのだ。
「ああ。なんだ?」
「『勇者の血』って知ってるか?」
少年は突然、何かを確信したような笑みを見せると答えた。
「もちろんさ。『木彫りの不死鳥』のことももな」
ウェドに驚きと喜びが同時にやってきた。
「本当に本当なのか?」
「ああ、決まってるだろ。これはおもしろい。お前の仲間に会いたくなった、一度会わせてくれないか?」



投票

良い投票 悪い投票

感想投稿



感想


「 五十嵐時 」さんの小説

もっと見る

ファンタジーの新着小説

もっと見る

[PR]


▲ページトップ