「な〜んかさぁ、気になるよねェ…」
「え? ああ、例の時の回廊の事か」
スネアに肘をついたままのエリカ。
左手の指で器用にスティックを回しながら、「う〜ん」てな具合に考え込んでいる。
「今日、行ってみるか?
俺も何だか気になるしさ」
品川恵利花はニカッと笑顔を見せると、スティックをマッチドグリップ(ロック系の握り方)に変え、タムタムをいきなり連打した。
先年、帰らぬ人となった天才ドラマーのナンバーがなんの前触れもなく始まる。
バンド名の由来となった名曲《ザ・ラットラー》である。
(By/ COZY POWELL)
全身で叩き出す様な激しいビート。
迷いが晴れたエリカの気持ちがストレートに伝わってくる。
それは、突然食らった暴風雨にも似ていた。
逆らいがたい勢いに、メンバー全員が嵐の様なサウンドとシンクロしていった。
「お二人さん、お寄りになりませんか?」
「あたし達、行き先決まってますから。 ゴメンね〜」
「なァ、占い師にやたら呼び止められるよな。
エリカお前、変な電波出してるんじゃない?」
「あら、諒司くぅ〜ん、それはアナタじゃないかしら? ウフフ‥」
「…だから、店長の真似はやめろっちゅーに!」
「え?あたし何も言ってないよ」
「何だって?
あ、美和さん…… ど、ど、どうしてここに」
思いがけず、目の前にバイト先のファミレスの店長、手島美和の、ちょっと意地悪そうな笑顔があった。
「あら、そォお。
二人おそろいで青蘭に呼ばれた訳ね。
きっとタダ事じゃないわね、フフ」
お店の時とは違い、髪をおろして眼鏡をかけた美和は、普段よりも柔らかい雰囲気だった……が、語った内容は穏やかではない。
「え?それ、どういう事ですか」
「時の回廊に行けばわかるわよ。
じゃあね、ウフフ…」
謎めいた言葉とほほ笑みを残して、手島美和は去っていった。