「園内と園外も近くは1日中捜しましたがどうしても見つからなくて…遠くへに行っちゃったのかもしれません…」
夕方。美祢ちゃんの手を握った若い母親に、私は必死に状況を説明した。
母親は強く憤りを感じているようだったが、私が説明している場で怒り狂う程の余裕はないようだった。話が分かるだけなのかもしれないが。
それよりも子供を捜したいのだろう。
母親は話を大体聞くと、父親を保育園に呼んで美祢ちゃんを家へ送っていた。
美祢ちゃんは泣いて由宇君を捜すと言っていたが聞き入れてもらえず、車へ押し込められる。
剣土君は、美祢ちゃんと由宇君の母親が来る30分前にもう既に帰ってしまっていた。
「警察に連絡しましょう。もう暗くなってきたし…」
園長先生が私に話しかけた。
彼女は続ける。
「大丈夫ですよ、きっと見つかります。由宇君も大人しいけど保育園なんて抜け出したくなるような年頃なんです。だから、佐々木先生…そんなに泣きそうな顔をしないで下さい」
泣きそう?
園長に言われて気付いた。
私は眉に力を入れて震え、目を充血させてしまっていた。
「…すいません 私、河原の方を捜して来ます…」
他の先生も3人くらい捜しに行っている。榊夫妻も何処かしら捜しているはずだ。必死に。
走って門を出ようとする私に向かって、園長先生は9時までは見つからなくても帰るように言った。
警察も呼ぶのだから…と。
しかし結局。
由宇君は見つからなかった。
次の日。
由宇君のいないさくら組は、いつもとそんなに変わらないような気もした。しかし美祢ちゃんがいつも由宇君にひっつくように…今日は剣土君にひっついていた。
剣土君が流君や他の活発な子と遊びに行こうかとすると、嫌々をするように引き留めて手を両手でつなぐ…。
流君はそんな美祢ちゃんを眺めて、いつもやんちゃばかりする彼にしては珍しく二人の近くで大人しくしていた。
普通より少し体が大きめな流君が二人の近くにいるとまるで、二人を何かから護っているかのようだった。
警察は未だ、由宇君を見つけない。