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「けんとくん、ねぇ…」
滝口流が帰ってから、榊美祢はそれまでほとんど開かなかった口を開いた。
剣土は午後ずっとレゴに没頭していたが、美祢の声に少しだけ視線を動かす。
「…ん〜?」
外は曇りで、雨さえ降りそうな雰囲気。
多分榊由宇がどうしているのか気になるのだろう。
「ねぇ、さがしにいこうよ…」
「…ゆうくん?」
「うん…みね…おにいちゃんがいないとやだから…」
剣土は困ったようにその顔を覗き込んだ。
「…でも、もうくらくなってるし…みねちゃんのおかあさんも もうすぐくるんじゃないの?」
「でも…みねも、さがしたいの!」
「………」
「けんとくん…」
剣土は。
俺の方をチラリと見た。
俺は首を振る。行くのはあまり薦めたくなかった。
それを見て、剣土は眉毛をしかめ、少し悲しそうな顔をして断りの言葉ゆかけようと口を開いた。
こいつも多分、探しに行きたいのだろう。
俺も少しだけ、悲しい気持ちになった。そしてそれ以上に、悔しかった。
「分かった」
口を開いて言ったのはそれだった。
美祢の表情が明るくなる。
「…ほんと?いっしょにさがして…」
「うん だけど暗くなる前に帰ろう。お母さんたちも心配するし…」
「うん!」
「俺について来て。美祢ちゃん」
「うん!!」
微笑する剣土を見て、美祢は今日初めての笑顔を見せた。
時刻は、4時。
榊美祢の母親が美祢を迎えに来るのは、いつも5時だった。
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「み…美祢ちゃんも?」
昨日、園長に早めに帰れと言われて午後に私はしぶしぶ帰った。
それがいけなかったのだろうか。
翌日出勤してきて、職員室のどんよりとした慌ただしい雰囲気に目眩がする。
昨日午後のさくら組を担当した先生に聞くと、
「昨日、気付いたら美祢ちゃんがいなくて…帰りの会まではちゃんといたんですけど…」
「探しに行った…とかですかね…?」
「…すいません…わかりません」
二人目。
しかも双子だった。