平成20年 12月27日
「今日でもう5年経っちゃったな、恵梨…。
あの時は、クリスマスプレゼント買ってやれなくてごめんな…本当に…。」
毎年この時期になると世界が滲んで見えてくる。
澄んだ世界を見るために努力はしているんだけど、なかなか成果は出てこないまま。
やっぱり時間とはそう簡単に比例しないものなんだろうか…。
年末ということもあってか、街はいつもより賑わっているみたい。
でも俺はこういう雰囲気苦手だ。
昔のような楽しい気分には、どうしてもなれない。
友達も俺を元気づけようと遊びに誘ったりしてくれるけど、全部断ってしまう。そんないつまでも尾を引きずってる自分自身に腹が立ってくる。
なんの気力も起こらず、ただボーっと飾られた写真を眺めていると、ある一本の電話がかかってきた。
「はい?」
「…もしもし、恵梨の母ですけど。」
「えッッ!?」
あまりに唐突過ぎる電話に、思わず声が裏返ってしまった。
「あッッどうも、ご無沙汰です。」
「そうね、久しぶりね。
シュン君元気だった?」
「元気ですよ。
お母さんこそお元気でしたか?」
「えぇ、私も元気よ。
…今日でちょうど5年経ったわね…。」
「…そうですね…。」
暫く沈黙が続き、なんだか気まずい空気になっていった。
「実は、渡したいものがあるの」
まるで沈黙を取り払うかのように、向こうから話かけてきた。
「渡したいもの…ですか?」
「いや、渡しておかないといけないものよ。」
「渡しておかないといけない…?」
俺は、なんのことだろうと考えていた。
「今日、家に来るんでしょ?」
「はい、焼香させてもらいに行くつもりです。」
「じゃあ来た時に渡すわね。
何時頃に来る?」
「昼くらいに行こうかと思ってました。」
「ならそろそろ出たほうがいいわね。
気をつけてね。」
「はい、ありがとうございます。」
電話を切り、恵梨の家に行く準備を始めた。
服を着替え、車のキーと財布と携帯電話、そしてお供え物を持って自宅を後にした。
道中の車内では、昔のことを思い出していた。
あの、辛くも楽しかった一日一日を…。