俺は、山中太郎
33歳独身である。
彼女いない歴15年…
最初の彼女を忘れられなくてもうこんな歳になってしまった…
もうその彼女はこの世にいないのに…
中小企業で働く俺はいつも外回りを任され、ほとんど自分の会社にいることはなかった。
しかし、世界の不況の煽りを受けてついに外回りの仕事も打ち切りになり本社勤務となった。
『久しぶりの本社での仕事かぁ。心機一転がんばるかぁ』
俺は何故か気合いが入っていた。
会社では会う人みんなに
『久しぶりだなぁ。元気してたか?』
と声を掛けられる。
嬉しいような恥ずかしいようなそんな気持ちでいた俺に聞いたことのない女性の声で
『山中さん。出張費の精算できました。』
振り向くとそこには15年間ずっと忘れたことのない彼女と雰囲気がそっくりな女性が立っていた。
『ドキッッ』
俺は一瞬で恋に落ちた…
自分の中で止まっていた『恋の時計』がついに動きだしたのだ。
心臓がバクバクし赤面していくのがよくわかった。
『ありがとう。』
受けとると俺は去っていく彼女を目で追っかけていた。
『おっ山中!久しぶり』
『あっ河口先輩お久しぶりです』
『あの…今の人誰ですか?』
『なんだぁ気になるのか?彼女は藤田さんって言って事務をやっている子だよ。まぁ彼氏ももちろんいるけどなぁ』
『えっ!?』
そりゃそうだよなぁ…彼氏がいないわけないか…
俺の『恋の時計』がまるでロウソクの火が消えるような寂しさで止まろうとしているのがわかった。
『もう俺には恋なんて無理なのかぁ…』
しかし、止まったはずの『恋の時計』は秒針を震わせ止まろうとはしていなかった。
つづく