「オレね、さとうだいきっていうの。キミのなまえは?」
事件は結局、剣土を殺そうとして誤って落ちたと思われる佐々木サキが犯人となった。
もちろん、断トツで怪しかったのは剣土やその家族だが、そんな小さい子供に出来る事ではないし家族には動機もない、矛盾点も多い。
よって、佐々木サキとなった。
しかしなぜわざわざ落とし穴を作ったのか、そこにずっと隠せると本気で思っていたのかなど、不明瞭な所も多いらしい。
…当たり前といえば、当たり前だ。
事件後すぐに剣土は転園した。
「…あらいけんと」
「ふぅん。…ねぇ、けんと。そのひとのなまえは?」
新しい幼稚園で剣土に初めて話し掛けてきた大輝は、俺を指差して笑った。
「…みえるの…?」
「うん。こわいけど…かっこいいひとだね」
俺は、多分久しぶりに剣土以外の生きている奴と目を合わせた。
『典韋…って呼んでくれ。笑っちまう名前だが、剣土が付けてくれたんだ』
「てん…い?シブい…」
あれから少しも笑わなかった剣土は、俺と彼を交互に見て少し明るい表情をした。
「おれの…ともだちなんだ」
しかしすぐに泣きそうな顔になる。
友達。
「…オレは?」
彼は、剣土の手を握った。
剣土は彼の顔を見た。頬っぺたには涙の筋がある。
「…オレのなまえは?」
それを見てニヤリと笑う彼に、剣土も困ったように笑顔を見せた。
「だいき。おぼえてね」
「…だいき…」
剣土は俺を見た。
俺も、ニヤリと笑って見せた。
「…あはは」
剣土は涙を流しながら笑った。
大輝を見ると、俺を見て笑っていた。
『仲良くしてやってくれ』
そう言うと、彼は剣土を抱きしめて俺に向かってグーサインをした。
笑い合う彼らの後ろで保育士が噂話をしている。
でも、剣土はもうただの子供だ。もう転園することはないだろう。
…子供は、誰にも差別をしない。
これから良くなっていく。
そう思えた。
おわり
(気が向けば続くかも)