「あの、谷というのはひょっとしてヘトラレスタの谷ではありませんか?」
そう訊いたのは雪だった。その男は少し驚いたがそうだ、と頷いた。
三人はお互いの顔を見合わせ、何だか希望が湧いてきた気がした。
「ヘトラレスタの谷…か。」フォーは小さくため息をついて俯いた。
「何かご存知なんですか?」「知ってるも何も、あそこは俺の家だ。
親父の名はレミス。」
「え……!?」
驚いた。
と、同時に違和感を感じた。
『人ならざる者』
そう呼ばれるレミスに息子がいるのは不自然だ。
「親父に何か用かい?」
「聞きたい事があります。」「聞きたい事…?」
「『三種の神器』についてです。」
フォーは俯いたままだ。
「なぜ、あれを求める?」
「止まってしまった時計の針を再び廻す為に。」
答えは、それだけで充分だった。
フォーがようやく顔を上げた。
「わかったよ。
嵐が止んだら、俺に付いてくるといい。」
シーラの言葉の意味を彼がどこまで理解したかはわからない。
ただわかるのは、嵐が止んだら、ということだけ。
「近道を教えてやるよ。」
「ありがとうございます。」多分それが、彼女が彼に初めて見せた笑顔だった。