レイは自分が女の子だという自覚が足りない。と、カナは思っている。
例えばさっきだって、自分はさっさと帽子を取って素顔を見せてしまった。
いくら短髪で男の子っぽいといっても、カナにしてみればレイは十分女の子と分かる。もっと自覚を持たないと!と思うのだ。
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カナがシャワーを浴び終えて部屋に戻ったとき、レイは大きな剣を抱えて壁にもたれてベッドに座っていた。
「ナイト?」
カナは笑いをこらえながら言った。レイの騎手具合もここまでくると笑える。
「勇者だよ」
冗談か本気か、レイはそう答えた。それなら自分はなんだろうと考えて、さしずめ非力なお姫様かとカナは思った。ため息が出た。
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朝になり、昨日買った物を食べて早くに宿を出た。昨日、夕方に来たときには気づかなかったが、明るい中で見るバーは寂しく見えた。
村を抜けて山に入った。小さな魔獣が何匹か現れた以外には平和な道のりだ。
「向こう島までは4日かかるんでしょ?それまで野宿するの?」
「まさか。こういう山には小屋があるんだ」
「旅人用の?」
「そ。ぼったくりじゃない限り泊まるよ」
そんなことまで調べてあるのか。カナがすごいと言うと、そんなことはないと照れもせずにレイはあっさり言った。
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「ねえ、小屋ってあれ?大きいね」
「小屋っていうよりホテルって感じだな」
太陽が見えなくなるころに見つけた小屋は、村にあったどの宿より立派だった。レイの言う通りホテルという名前の方が似合う。
「ぼったくりなんかじゃないといいけど」
呟くレイの後ろをカナはクスクス笑いながらついていった。さんざん魔獣を倒してお金を手に入れたのに、と思ったのだ。
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名前を書き、良心的な破格の値段の宿泊料を払った。内装も外見に劣らずすごい。
「ぼったくりじゃなかったね」
「金はいつだって足りないものなんだ。ケチケチして当然だろ」
レイが口をとがらせた。お金を気にするレイをカナが笑うからだ。
「今日はカナが先に入りな」
「え?いいよ。レイが入って」
お風呂のことだ。昨日と違って今夜は浴槽がある。順番だからと言って遠慮するレイに、カナは諦めて先に入ったが、戻ってきたとき、そこにレイはいなかった。