「あれー?レイー?」
タオルを頭にのせたままカナは首をかしげた。呼びかけても返事がないということは、レイは部屋にはいないということだろうか。
「どーこ行ったんだろ」
呟くのと同時に外からドアが叩かれた。カナは頭のタオルを右手に持ってパタパタとドアに駆け寄った。
「はい」
返事がない。覗き穴がないので見ることはできないが、レイじゃないことは確かだ。
「あの・・・?」
「ツレのことで話がある」
「えっ?」
頭が真っ白になった。怪しいと思わないわけなかったが、ドアを開けないわけにもいかなかった。
ドアを開けたそこにいたのは、ホテルの従業員でもましてレイでもない。鋭く光る目を持った男だった。
カナは声にならない悲鳴をあげた。とっさにドアを閉めようとしたがもう遅い。男はぬっと部屋に体を入れた。
「だ、れ」
男は表情のない顔で目だけを光らせている。カナをぽんと押して、後ろ手でドアを閉めた。
ドアが閉まるパタンという音が、カナには絶望を告げる音に聞こえた。
***
手を背中で結ばれ、両側には屈強な男が2人。それだけで十分逃げる気を削ぐのだが、目の前の男はさらに圧力をかけてくる。
レイは殴られた右頬がじんじんと痛むのを無理矢理無視して、目の前の男を睨んでいる。
「いい加減言っちまえよ。なあ」
「知らないって言ってるだろ」
男は聞き飽きたというように、レイの言葉の途中で片手をひらひらと振った。実際、レイはこのセリフをこの男に何度となく言っていた。
「吐かないとー、お前のツレ、ヤっちまうぞ」
レイは喉の奥で息を吸った。男の顔が残酷な笑みで歪んだ。
***
男がレイを捕まえたのは、カナがシャワーに行ってすぐだった。ドアをたたき、開くまで黙って待って、出てきたところを連れてきた。
カナを連れていかなかったのは、男には情報、仲間の数、それに経験という自信があったからだ。
男はレイに、宝はどこだと聞いた。レイは正直に知らないと言った。2回目にそう言ったとき、男は大きな手でレイの頬を叩いた。
***
(最悪、死ぬかもしれない)
レイが思い出したのは、ビガ村でいとも簡単に男に組み敷かれていたカナだ。自分がいなければカナは本当に危ない。