「では、早速だ始めよう」古賀は野沢にブースに入るよう促した。
野沢は少し緊張した面持ちでブースへ入った。
「渡辺、まずどんな感じか流してくれないか」
アシスタントデレクターの渡辺は頷いただけで、野沢祥子の『明日の私』のオケを流し始めた。
野沢はブースの中でヘッドフォンをして目を閉じ曲をじっと聴いている。
曲はエンディングを迎えた。
「このオケに、昨日俺が言った通り、この曲の持つ詞の世界感を大事にまず三回録ってみよう」
野沢祥子は、言うまでもなく、すでに自分の世界に入っていた。
古賀はその姿をみて、これは必ず良いものができると確信した。