「あいつらがいる部屋は分かってる。今から向かう。お前はここにいろ」
「わ、わたしも」
「お前がいても助けにはならない」
ニルバがぴしゃりと言った。タームが相変わらずの笑顔でニルバを見た。
「せっかく名前聞いたのに呼ばないんじゃ意味ないだろうが。なあ、ミキちゃん」
「あ、カナです」
「でも、ま。ニルバの言う通りだ。お嬢ちゃんはここにいな」
「う、はい・・・」
笑顔なのにタームは怖い。目が笑っていないからだ。カナはうつむいた。
自分には何もできないことが2人には分かっているのだ。たぶん、自分が思う以上に分かっている。
「レイをお願いします」
部屋を出ようとしていた2人はその声に振り返った。カナが頭を下げていた。タームは笑って、大丈夫だと言った。
***
ふうと息を吐いてベッドに座った。固いスプリングがバウンドさせる。カナはぎょっとして顔を上げた。
右手のドアと左手のドアが勢い良く開いたからだ。現れたのはタームやニルバと同じような格好の人達だ。タームの仲間だろう。
「えっ?えっ?」
「おー、ほんとだ!女の子だ!」
「えっ?何っ?」
「かわいーじゃーん」
カナはまたぽっぽっと顔を赤らめた。出てきた7人は、十代前半そうだったり三十代後半そうだったりの男の人だった。
「名前は名前は?」
「か、カナです」
「年は?」
「じゅ、17才です」
「女の子2人で旅してるんだろ?」
「は、はい」
矢継ぎ早に聞いてくる彼らにカナは目を回しそうだった。
***
レイを奪った賊は『アン』と呼ばれている。未知という意味だ。大きな組織であるということ以外には知られていない。
「2つ上のフロアを貸し切ってるんだったな」
「女がいるのはそこのB棟だ」
「女じゃない、レミだ」
「レイだよ」
階段を上がり、B棟に入った。手下が見張っているかと思ったが誰もいない。しんとした廊下は不気味だ。
しかし臆することなく2人は堂々と進んだ。アンのボスが自信を持っているように、タームとニルバもお互いに自信を持っていた。
緩い曲線の廊下を歩いていたとき、そこに行く手を阻む巨漢と2人の男が立っていた。