どうやらお金が入っていないらしい。
大男は5、6人の警察官を振り払い表へと出て行ってしまった。
私は床に落ちている財布を拾い上げた。免許証が入っているのが見えた。それを見ると住まいは、この近くらしい。
少したち警察官と大男が暑内に戻って来た。
大男は私に向かって言った。
「お兄ちゃん。さっきは悪かった」さっきより落ち着いた口調だ。
「煙草でも吸うかい?」私は言ってみた。
「その一言は余計だ」
「すまない」
私は拾い上げた財布を大男に手渡した。
「おっ。ありがとう」
その時、携帯電話のベルが鳴った。時刻は5時半である。
「仕事の時間だ。俺、この近くだから帰るは」
「じゃあ、お巡りさんが送るから」
「いいよ。近いから」
「仕事でしょ」
「当たり前だ」
私は何事もなかったかのようにその光景を眺めていた。
東の空からは今日の始まりを告げるかのような朝陽が顔を出していた。