「すごーい。大きいねー」
「聞いてたよりずっとすごい」
はしゃぐ2人の背中を見ながらタームがため息をついた。ユーラがどうしたよと声をかけた。まあ、聞かなくても分かるが。
「心苦しくてなー」
「まあ、相手にされてないけどな」
「お黙り。これからだよ本当の戦いは」
「これから?またあの2人についていくのか?」
ユーラが言った。ニルバが怒るだろうなあと思ったのだ。
「いや、レイを持って帰ろうと思うんだけど、お嬢ちゃんには悪いなあと心苦しくて」
「もっと苦しめ!何言ってんだよ!」
不穏なことをさらりと言うタームをまじまじと見た。持って帰るって、それは誘拐と言うんだよと叫んでやりたい。
「俺は海賊だぜ?惚れた女1人盗めなくてどうするんだよ」
「いや、そんなこと言ったって全然かっこよくねえよ」
「えー。何でかなあ」
タームはレイを見つめている。
「人さらいなんて賛成するわけねえだろーが」
「じゃー、どーすっかなあ」
「後、つけるんだろ」
ユーラがため息混じりに言った。
森で2人を見かけた後も実はつけていた。そのおかげであの2人のホテルでの危険を防げたのだが。
「何がいいだ、レイの」
レイを見るタームの視線が熱かったから思わず尋ねた。
気が強くて、多少腕が立つところは確かにいいかもしれない。しかし18の子供だ。
カナの方は厚着していて分かりにくいが(ユーラは自然とチェックしてしまう)、レイは薄い筋肉があるだけで細い。
何が楽しいんだか、と思っていると、視線を感じた。タームだ。鼻で笑ったような顔をしている。
「まだまだだねえ、お前も。ヤリ手で遊び人でプレイボーイで手が早」
「うっせえ。それはもういい」
「お前もまだ若いって言ってんだよ」
「レイよりは年上だけど?」
「そーゆーこと言ってんじゃないよ」
タームが肩をすくめた。似合わない仕草が鼻につく。
「女はね、体じゃあないんだよ」
「へえ。昨日、レイを誘って返り討ちに遭ったんだろ?」
「ニルバか!くそー、あいつー。男の勲章をぺらぺら喋りやがってー」
「なーにが勲章だよ」
ユーラがカナをちらりと見て頬杖をついた。港に入る準備をしろというニルバの声が聞こえた。