「酷な話ですが、今の医療技術では助かる事はまずありません」
医師の口から吐かれた言葉はその病気の少年本人にとっては驚くこともない些細な事であった。
しかし、その少年の後ろに控える両親にとってはその言葉がどれほど辛い話なのかを表情に悲痛という名の痛みを含みながら表現しているようであった。
「鏡(かがみ)さん・・我々も尽くせるだけの手は尽くしました。しかし・・・」
医師にとってもその言葉を伝える事は辛いのだろう。
それを感じ取った少年が自ら口を開いた。
少年の瞳は透き通るような黒色であった。
「俺は・・・あとどれくらい生きられるんですか?」
少年の言葉に驚いたのは医師だけではない。
その両親もであった。
本来、十五歳という歳の少年が自分からあとどれだけ生きれるか?など聞くことが出来るとは思わないからだ。
依然として少年の瞳は揺らぐ事を知らず、ただ暗闇をその瞳に宿していた。
「鏡さん・・そして、恭人(きょうと)君・・ここからは可能性の問題です。一つは今までと同じように入院生活を続ける事。そして、もう一つは残りの時間を家族で過ごす事です」
医師の言葉にはいくつも足りない重要な言葉が抜けている。
それを分かっているのはこの中ではもちろん、動揺した両親を除く恭人と呼ばれた少年と医師だけだった。