第4話
翔子は、自分宛のハガキを手に取り「出席」に丸印を付た。
「いろんな人に聞いて見たの?野球で一緒だった人とか」「うん。大学時代までは、それなりに付き合っていた人がいたらしいけど、その後はほとんどいないみたい」「そうなんだ」翔子は、あえて近所に引っ越してきた「只野」の事は口に出さなかった。逆に純子から、何らかの情報がもらえれば、と思っていたが、それも無理の様だった。
数日後、長男の隼人が突然「野球少年団」に入りたいと言い出した。理由は、と聞くと、転校生の只野が、前の学校でも野球をやっていて、父親がチームのコーチをしていたとの事だった。そして、その子供「幸介」が、こっちの学校でも野球を続けるらしく、隼人も一緒にやりたいと言い出したのだ。
翔子は、謎解きが一気に進んだ、と思った。少年野球のコーチ、そして子供の名前が「幸介」。やはり間違いない。では何故名字が「只野」なのか?
その夜、翔子は夫の「俊章」に隼人が野球少年団に入りたいと言っている、と伝えた。俊章は「それは良いことだ。子供のうちからスポーツで体を鍛えるのは大事だ」と簡単に了解をした。俊章は余り体を動かす事はしないが、隼人と「キャッチボール位はしたいな」と常々言っていた。
早速翔子は、少年団に入っている子供のお母さんから、何を用意したら良いかを聞いて回った。そして、これは良い機会だと思い、只野の家を訪ねた。
只野の妻は、出産予定日が近づいていて、実家の母親が来ていた。娘も美人だが、母親は上品で気品のある美人だった。
一通り少年団の話を聞いた後、翔子は切り出した。「ご主人は前の学校で少年団のコーチをされていたんですって?」「ええ、主人は仕事以外は野球しか興味がないんです。」「そうですか。でもうらやましいですよ。うちの主人は観戦だけで、自分では体を動かそうとしないから、最近はメタボ気味で…」「うちの主人は、今の幸介と同じ小学3年生から野球を始めて、30才過ぎまで続けていたので、幸介が少年団に入ると同時にコーチを頼まれたんです。でもこっちに来てからは、頼まれても『遠慮する』と言ってました」只野の妻は、翔子の家に来たと時は別人の様に、主人の話をした。翔子は、もう少し話を聞こうとしたが、只野の妻は、母親の顔色を伺いながら、相づちを打つ程度に、黙り込んでしまった。翔子は居ずらくなり、礼を言って只野の家を出た。