シャープはその血だらけの床を見て絶句した。
「誰?」
シャープの背後の玄関の戸が開き、そこからひとりの少女が姿を現した。
「誰なの?」
少女とシャープは目を合わせた。
「落ち着いて」
シャープは優しい口調で言ったつもりだったが、少女は既にパニックに陥っていた。
少女はパットの存在に気付くと慌てて踵を返し、逃げていってしまった。
その時に懐から封筒のようなものを落としていった。
「なんだろう?」
シャープが拾いあげたその封筒には不死鳥の形の封蝋が押してあった。封蝋は既に切られていた。「この封蝋はパラスの王城から出された手紙って意味だな」
後ろからパットが顔を覗かせた。
シャープは封筒の中に入っていた手紙を取り出した。
「『第三十四条、特殊条件下における国の特別保護対象によりフィール・アストラル様のパラス城一時移住を許可する。並びにこの封書を入城許可書とする』・・・まずいですよね」
「アストラルって書いてあるってことはこの家の住人だったんだな。まずいよなー」
「そうじゃなくて、さっきの子国の特別保護対象を受けてるんですよ。返さないといけませんよ」
パットは面倒くさそうに答えた。
「どうでもいいが、この薄気味悪い家を出ようじゃないか」
「あー、腹減ったなー。金持ちどっかにいないかな?」
ドローはオーケスでいつも金持ちばかりを狙って盗みをはたらく盗人だった。だが、今日だけはなかなか金持ちが見つからず困っていた。
「よしっ!今日だけ、今日だけは、神様も分かってくれよな。次、見つけた奴から金を盗む!こっちだって命の為なんだからな!」
そう自分に言い聞かせ見つけたのが・・・
「魔導師とおっさんかよ。ああ、神様。どうかお許しを」
ドローはふたりの少し後ろから助走をつけ、走り出した。
「いただきー!」
「あっ!」
シャープは後ろから走ってきたドローにすれ違いざまにコーディアから貰った財布を盗られてしまった。
「待てー!」
「わりぃー。勘弁してくれー」
ドローはみるみる内に遠ざかっていく。
「逃がさない!」
シャープはドローの足を地面と一緒に凍り付かせた。
ドローはその勢いで顔を地面に打ちつけた。
「いってー!」
シャープは容赦無く倒れたドローの手足を地面と一緒に凍らし動けなくした。
「頼むから勘弁してくれって」