私は見た。その男を。見た瞬間に、危険を感じた。
うちの学校は女子校。うちの学校の先生でもない、男。
何かを持っている。クラスメイトの玲子を狙っている。
玲子は気づいていない。友達と喋っている。
男が持っているのは刃物だった。玲子が刺される。今、ここで。私が声をあげれば気づいたはず。
でも、私はただ、見ていた。怖かった。怖くて声が出なかった。体が震えて動かなかった。
というのは、実は嘘。私は冷静だった。玲子が刺されるのを見たかった。玲子が苦しんで死んでいくのを見たかった。
玲子は、私の敵。私の悪夢。
玲子が私に与えた苦しみは計り知れない。昔から、私に陰惨な苛めを繰り返す。
玲子が消える。私は解放される。そう思った。
でも、玲子は刺されなかった。男は、すぐに近くを通りがかった体育のK先生に取り押さえられ、警察に連行されていった。
私は、解放されなかった。玲子は、生きている…。
このことは全国のニュース、新聞で取り上げられた。
男は玲子を刺そうとしたことを証言した。玲子の名前は報道されなかったけど、玲子のことだとわかった。
私の悪夢はまだ続く。なんで男は玲子を刺してくれなかったの?なんでK先生は男を取り押さえたの?