ずっと遠くから声がしていた。
その声は何度も向こうで反響していた。
その声が響くほぼ同時に顔には暖かいものが降ってきた。
何だろう。
触れてみたいという衝動に駆られた。
それは生暖かいものだった。
「――ろっ」
それはあるものを彷彿させるものだった。
「――きろっ」
それは、想像もしたくないあの液体。
「――起きろっ!」
――血だ。
目を開けると、目の前には先生が居た。
「…せ…んせ…」
「はっ…ようやく目を醒ましたかよ…お前は…」
先生はそうして苦しそうに笑った。
………。
何で…こんなに血だらけなんだ。
血…?
血!?
「先生、っ…!」
痛みで、ボンヤリしていた意識が一瞬で覚醒した。
そうだ…俺は…撲られて。
慌てて周りを見渡すと、すぐにその視界に麻衣の肢体を捉えることが出来た。
俺が手を伸ばせばすぐに手が届く場所で胸を上下させている。
――良かった生きてる。
だが、そこでホッと一息吐くことは許されなかった。
「な…んで…」
俺は愕然としてしまった。
家が、燃えているのだ。
これ以上無いくらいに火の粉を巻き上げ、燃えていたのだ。
「…わりいな…お前等二人だけで…精一杯だったわ…」