数日経ったある日、僕と父さんは「あのこと」で順平の家を訪問することになった。
父さんの話によると、おじいちゃんは病院を一時退院して、余生を家族や親友と過ごすつもりだと
言う。
僕にとっては思いがけないところでもう一度おじいちゃんに会う機会がやってきた。
順平の家へ向かう途中、僕は当時のことを思い出していた。
小学校入学して間もなかった僕は、学校帰りによく順平の家に遊びに行ったものだった。
おじいちゃんは決まって庭沿いの縁側に腰掛け、僕に草木のこと、動物のこと、たくさんのおもしろい話を、あの力強い口調で聞かせてくれた。
中でも僕はおじいちゃんが庭の池で飼っている鯉の話が大好きだった。
「こいつはなぁ、俺の自慢の鯉だ。夕焼けのように真っ赤なこの色彩は俺の誇りなんだ。」
これがおじいちゃんの口癖だった。
いつしか幼い僕は、その真っ赤な夕焼けの虜になっていた。
そんな事も全部、今の今まで忘れてしまっていたことに僕は少し後ろめたさを感じた。