『明日の私』のイントロが流れ出した。野沢は、緩やかに歌い始めた。張り詰めた緊張感が伝わってくる。
曲がエンディングを向かえると古賀が声をかけた。
「出だしもいいし、サビまでの流れもいい、あとはサビだ。『明日の私は今日よりも』と強さが欲しいんだ。一番大事な所だ。そこを意識して2テイク行ってみよう」
野沢は、また目をつむって自分の世界に入りこんだ。
「よし、渡辺流してくれ」
そして『明日の私』のイントロがスタジオに流れ始めた。
この時、誰も、この野沢祥子の『明日の私』がオリコン一位を獲得するとは知るよしもなかった。
ただ、プロデューサーの古賀だけは、なぜだか確信があった。