増谷医師は私を一人診察室に残し、彼女の両親を別室に移しました。
「いかがです?ここ数日、あなた自身の体調に何か普段と違う点はありますか?」
「いえ、特には・・・」増谷医師は私とは違い、至って普通の態度で私に接しました。その為、私もいくらか安心して応えることができました。
「そうですか・・・」
彼は小さくカルテを覗き込み、ため息を漏らすように呟きました。
「そうでしょうね・・・先ほど検温していただいた際も熱はなかったようですし、血液検査でも異常はでていません」
「なら、大丈夫だということですか?」
その時点で私はわかっていました。そんなに都合良く事が進むことは・・・
私はその日から完全隔離を余儀なくされました。その時のことは正直なところあまりよく覚えていません。入院手続きや会社への連絡は誰がしたのかもわからないくらいです。覚えているのはその不安と、未だに増谷医師が何も説明しようとしないことへの焦りです。私は暗中に置き去りにされ、声も出せぬまま、身を振るわせるしかありませんでした。
ただ、その日の晩、私は彼女を思い出して泣きました。ポッカリと空いた右手を眺めたりしました。小さな病院のベッドの中で空虚な気持ちに駆られました。
「ナオミ・・・」
意味無く彼女の名前が頭を巡り、私は眠りにおちました。
二、三日の間、私の体調が悪くなることはありませんでした。毎日の検査でも異常が見つかることもなく、暇なをもてあますばかりでした。
そのため、完全防備でやってくる看護婦さんを捕まえ、世間話のついでにそれとなく彼女や寄生虫のことについて聞いてみましたが、「よく知らない」と言うばかりで何一つ教えてもらうことができませんでした。
4日の朝、ついに私は堪り兼ねて、増谷氏への面会を求めるために検査に来た看護婦を捕まえました。
「私はいつ退院できるんですか?」
看護婦は首をかしげて苦笑しました。
「そうですね・・・私に聞かれても、ちょっと・・・ねぇ。」
「あの、先生に会わせてもらいたいんですが」
そう言うとその看護婦は急に真剣な顔になって小さく頷きました。
「何かご不満でも?」
すぐに医師がやって来て言いましたが、その医師は増谷氏ではなく壮年の男性でした。
「増谷先生は?」
私は戸惑いながら聞きました。
つづく・・・