「おじいちゃんのってことよね?」
「うん。たとえばテープに録音したりしなかったのかな?」
祖母は中空に視線を漂わせ、自分の頭の中に探りをいれていた。
「あたしはそういうの覚えてないわねぇ。…でも」と話しを続けた。
「あるかどうかはわからないけど、おじいちゃんの遺していった物のなかに、もしかしたらあるかもしれない」と、まだ何かを考えているような顔で言ってくれた。
「それって今探せる?」
「ちょっと…今じゃなくたっていいでしょ。明日でいいじゃない」
口を尖らせ、怪訝な顔つきの姉に言われた。ごもっともな意見だった。みんな、いい感じに酔っぱらっていた。今からひと仕事お願いします、っていうのは酷なはなしだった。おれは血ののぼった頭を冷やして、「ごめん…ばあちゃん、明日探してみてもらっていいかな?」と言った。
「お安い御用だよ。じゃあ明日ね」
聖母マリアも顔負けの深い愛に満ちた顔で、祖母は言ってくれた。おばあちゃん、あなたは世界一、おれにやさしい人だよ。
次の日も、雪はしんしんと降り続いていた。おれが起きたのは、午前10時を過ぎた頃だった。寝床として使わせてもらっている二階の部屋から居間へ下りていくと、もうそこには、祖母を除いた全員がコタツに居据わっていた。コタツの上にはいつもと違い、古びた箱やらアルバムやらが散乱していた。それを各々、手にとってはしみじみと眺めて、言葉を交わしていた。おれが声をかけようとしたその時、台所から祖母が音もなく入ってきて、「おはよう。よく眠れた」とおれに声をかけた。祖母の顔は、いつも通りのやさしい表情だった。