並木道には、すぐ近くの工場の煙からの淀んだ風が吹き込んできていた。
「昔はここいらにも、もっとたくさんの木々が生えていたんだ。」
おじいちゃんが僕に語りかける。
辺りを見渡すと、無造作に建てられたビルや住宅地が目に入った。
見上げると、空ではちょうど太陽が沈み始めていた。
真っ赤に染まった空の真ん中には、淀んだ空気が重なり、黒くかすんだ夕日がぽっかりと浮かんでいた。
「俺は夕焼け空が大好きだったんだ。」
おじいちゃんは少し悲しそうに言った。
それが僕とおじいちゃんの最後の会話だった。
おじいちゃんはそれから一週間後にこの世からいなくなった。
数週間たったある日、僕は再び順平の家に挨拶に行った。
縁側には、当然おじいちゃんの姿はなかった。
からっぽの池には、うっすらと苔が生え始めている。
僕はあらためて確認した。
もう真っ赤な夕焼けが帰ってくることはないのだと。