「うん。ぐっすり眠れました。…みんな早いね」
「寒いからコタツに入って、お茶でも飲んでて。みんなもさっき起きてきたところだから。今からご飯にするからね」
「うん」
前日、あれだけ酒を飲んだのに、祖母は、まったくそんな事を感じさせなかった。
「あぁそうそう。昨日言ってたアレだけど、ほらっ、今みんなが見てるアレがそうよ。…残念だけど、おじいちゃんが自分で録ったテープとかはないみたいよ」
台所に向かっていた歩みをわざわざ止め、踵を返し、おれに正面を向きながら祖母は言った。
「そっか…。とりあえず、色々見せてもらうね。おばあちゃん、ごめんね。色々ひっぱり出させちゃって。…ありがとね」
早速、暖まっているコタツにスルッと足を突っ込んで、みんなと一緒にコタツの上いっぱいに拡がっている物を物色した。そこには、様々な物が雑然としており、コタツの上に乗り切らなかった物は、コタツのまわりに置かれていた。アルバムや、アルバムに貼られていない写真の山。たぶん、生前に身につけていただろう、時計や貴金属類。それに、手紙やノートなんかもあった。でも、祖母が言っていた通り、テープなどの類の物は一切見当たらなかった。その中に、まだ誰も手を付けていない、埃がうっすらと積もった、正方形状の黒い箱があった。それは、おれが座った真横に置かれていたが、何故かコタツに入る際には、まったく目に入らなかった。大きさからいって、コタツの上に置くにはちょっと大きかったのだろうと思われた。おれは、母がいれてくれたアツアツの日本茶を、音を立てながら啜り、コクコクッとゆっくり喉に流し込み、一呼吸置いたのちに、埃の積もった箱の上蓋に、そっと手をかけた。