AとB

ニコル  2009-01-15投稿
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それは、Aの唐突な問い掛けから始まった。

「君は死ぬとは何か解るかい?」

なぜAがこんな問いを持ち掛けるのか、そんなことはBにとってどうでもいい事だった。
なぜならAのこの手の問いは、Bにはもう日常茶飯事だったからだ。

しかし今回のそれは、Bにとっていつもに増しての難題だった。

Aはそれを察したかのように、質問を変えた。

「それじゃあ、君は死んだことはあるかい?」

「いいや。」

「一度もかい?」

「もちろん。」

BにはAの意味することが解らなかった。
死ぬとは命を失うこと。
一度無くした命は二度と戻らないことなど、誰もが知っていることだ。

この問いは、今、現に生きているBに向けられるべきではなかった。

Aは話を続けた。

「僕は死んだ事があると思う。いいや、死んでいたと言うべきだろうか。」

Bは困惑の表情を浮かべた。

「それはどういうことだい?」


「例えば、君は去年の今日という日には確かに生きていた。それは間違いないね?」

「もちろんさ。」

Bには確かにその日から今日までの記憶があった。
それはBが今日まで生きていたという紛れも無い証拠である。

「それじゃあ、二十年前ではどうだい?」

Bは今度は言葉につまっってしまった。

二十年前、その時には、まだBの人生は始まっていなかった。
当然、その時の記憶などあるはずもない。

Bには自分が生きていたという証拠がみつからなかった。


「そうか、生まれてくる前には誰もが命を持たない、つまり死んでいたということだ。」




納得したBは、もう一度、死ぬとはどういうことかを考えてみた。



しかし、どれだけ考えても、やはりその答えは見つかりそうにもなかった。





ふと見上げると、そこにはいつもより大きな空が広がっていた。


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