ちなみに写真についてだが、半分くらいが冠婚葬祭的な写真だった。ほかの写真はというと、緑が目に鮮やかに飛び込んでくる、大自然を背景に撮られたものだったり、洟を垂らしながら野原を縦横無尽に駈けまわっていたであろう、子供の頃のものだったりと、齢様々、四季折々の写真があった。
だが、十字路で出会ったあの男とおぼしき姿は、それらには写っておらず、写真を見るかぎりでは、おじいちゃんがあの男であるという仮説に、疑いを強めざるを得ない結果となってしまった。
からだを90度左にひねり、積もった淡雪のような埃が舞ってしまわぬように、細心の注意でもって、黒箱の上蓋を開けた。シュファッという音とともに、ずっと外気との接触を閉ざされ続けてきた古けた空気と、お世辞にも綺麗とはいえない帽子がひとつ、永き封印から解きはなたれた。
帽子を手に取り、90度ねじれていたからだを元に戻した。
「おおっ、懐かしいな」といったのは父だった。
「あらっ、お洒落」といったのは母だった。
無言でチラ見したのは、姉だった。
帽子は、いわゆるソフト帽と呼ばれているもので、色はおそらく茶系のものとおもわれた。積年の汚れで、はっきりとした色はわかりづらく、黒や緑とも見てとれるような濁色をしていた。
おれは、帽子に見覚えがあった。それは、あの十字路であの男が被っていた帽子と、とても酷似していた。