1-? 春の墓
『私も,
手伝いましょう。』
純は,女の横に座り込んだ。
女は思いがけないと言う顔でこの若い男を見た。
男は既に腕捲りし,
堀かけの穴を掘り始めている。
『あの‥。』
『何でしょう?』
『‥どうして?』
女は率直な疑問をぶつけた。
若い男が見ず知らずの人を手伝うなど現代にして珍しい事だ。
ましてやツバメのヒナの墓作りなど‥
純は複雑な顔をした。
『どうしてと言われて
も‥ただ,お手伝いし
たかったのです。
ヒナをそのままにして
おくのは私も心が痛み
ますからね。』
女は純の言葉を聞いて微笑んだ。
どこか二人を包む,
かしこまった空気が緩んだ気がした。
『では,ご一緒に。』
†
どの位の時間が経っただろう。日は既に沈んでいる。
二人は作り終えた手作りの墓に,手を合わせていた。
『馬鹿らしいとは,
思わなかったのです
か?』
女はポツリと言った。
『馬鹿らしいとは?』
『この墓の事です。
皆笑うのです。私がこ
うして墓を作る事に。
くだらないとか,馬鹿
らしいとか。』
純は手作りの墓に目を向けた。女はまだ続ける。
『こうして誰にも気づ
かれぬまま消えて行く
命がある事を皆は知ら
ない。この墓は,ここに
1つの命が存在したと
言うしるしなのです』
女の声にどこか力強さがあった。
『存在していた命を,
見て見ぬふりするだな
んて私には,
絶対にできません。』
純は真剣に女の言葉をきいていた。それから,
『そうですね。私は,
うかつでした。』
言うなり,純は地面に手を付き女に深々と頭を下げた。
『‥!?』
『私は馬鹿です!!私が
墓作りをしたのはただ
単にヒナが可哀想だと
思っただけ,
あなたの深い心を,
少しも理解していなか
った!!』
純はまだ頭を上げない。
『一緒に墓作りをして
いた自分が恥ずかしい!
本当に申し訳ございま
せんでした!』
『や,やめてください!!
おかしいのは,私の方
なのです!頭を上げて
ください!!』
女はどうしたら良いのか分からず,ただこの言葉を何度も繰り返した。
●○続く○●