兄の涙。とても強く、厳しく、そして とても優しい兄。
その兄が泣いている。
でも、私は
「関係ないやんか」
と、その兄の手を振り払って 彼を追いかけて行った。
走りながら 兄の涙を思い出す。
立ち止まり、空を何度も見上げた。
大阪には珍しいだろう、星がたくさん見えた。
走っては止まり、とぼとぼ歩きながら星を眺めた。ロマンチックなどではなく、ただ空を、星を見上げた。
家に帰ろう。
好きだけど憎い。
憎いけど愛してる。
こんな恋愛には、もう
ピリオドを打とう。
そう決心させてくれたのは、親でも友達でもなく、ずっとずっと幼い頃から 守ってくれた三歳年上の兄だった。
父親からの暴力を、母や私より受けてきた兄。
なのに、自分より母や私を優先してきた兄。
中学の頃は私より 荒れていた。
でも 母や私には優しい兄。
ブラコンと言われても構わない。実際そうかも知れない。
とにかく、私は 彼を忘れようと頑張った。
見たくもない、バラエティ番組を見て 気を紛らわした。
そのうち、食事はおろか、水分さえも採れなくなってしまった。
見兼ねた母が 病院に連れて行こうとする。
嫌がる私。
それを無理矢理、兄が私を抱き抱え、車に乗せた。
病名 「うつ病」
兄が私を病院の外に連れ出した。
「見てみ。今日めっちゃ星、綺麗やろ」
ドラマじゃあるまいし。
星が綺麗からって 状況は変わらんやん。
そう思いながら 空を見上げた。
それこそ、ドラマじゃあるまいし………
そこには、あの日、初めて 兄の涙を見た時の、 とぼとぼと彼の家に向かう時に見た、星空だった。
勝手に涙が出た。
兄は慌てて
「ごめん!しんどかったな。中入ろうか。」
そして、 改めて 私は彼と本当に決着をつけよう、そう決心した。
ちゃんと 「別れ」をしようと。
でも、私のせいで兄は警察に連れて行かれた。
馬鹿でガキな私を守る為に。
兄を助けたい。
彼を苦しませたい。
その思いだけで その頃は生きていた。