第15話
その日俊章は、いつもと同じ、7時頃に帰って来た。普段と変わらない夫の振る舞いに、騙されていると思うと、悔しくて堪らなかった。
数日後、純子から電話が来た。
「翔子、あなたの旦那の事だけど、雄二に相談したの」「ええっ、菊地君に?」「御免ね、勝手な事して。でもね、雄二の会社は、もう何年も賢介の会社と、取り引きが有ってね、何か分かるかな、って思って聞いてみたの」「そうだったの」「それでね、色々と分かったらしいのよ」「本当に?それで白、黒?」「黒に近いブルーかな?」「何、それ?」「翔子の旦那かどうかは分からないけど、彼女が大学時代、銀行マンと付き合っていた事が分かったの。それで雄二が、詳しく説明するから、来れるかって、言ってるけど、今日の午後、出て来れる?」「うん、分かった。行くよ」
翔子が純子の家に着くと、二人は直ぐに、雄二の家へと向かった。純子の家からは、歩いて10分程の距離だった。
二人は事務所の入口へ入った。すると、雄二の妻が応対してくれた。雄二の妻と純子は顔見知りであり、親しげに挨拶を交わし、翔子を紹介した。雄二の妻は、大方の話を聞いているらしく「大事なお話の様ですので、主人は自宅で待っています」と言って、隣にある自宅の入口へ案内してくれた。住宅の入口を入ると、雄二が「いらっしゃい、お二人さん」と、にこやかに迎えてくれ、大きな応接室へと通された。翔子は、菊地雄二が、小さな会社の社長、と聞いていたので、想像していた以上の立派な住宅に、驚いてしまった。間もなく、雄二の妻がコーヒーと茶菓子を持って来た。そして「ごゆっくりどうぞ」と言うと、直ぐに出て行った。
「御免ね雄二、こんな昼間からお邪魔して!」純子がそう言うと「気にしなくて良いよ!俺にとっても、他人事じゃ無いんだよ」「えっ、どう言う事?」翔子が聞いた。「だって、俺と賢介は同じ大学の同期生だし、翔子の旦那は先輩だろう。そして、今回分かったんだけど、賢介の嫁も、俺たちと同期だったんだ」雄二はそう言うと、大学の同窓会名簿を持ってきて、開いて見せた。
「そうらしいね」「『そうらしいね』って、あんた知ってたの?」「うん、クラス会の時、賢介が言ってた。でも、賢介とあの人は、大学時代は、知らない同士だったって」すると純子は、まくし立てる様に言った。「何のんきな事を言ってるの?翔子。」