ここに引っ越してきてからすぐのことだった。
春先、荒れ狂う風の中にこの身を投じてしまったことをくやんでやまない。
そう、女は外は春、内は冬のフロンティアに来たのだ。
この強烈に暑く寒い風に対抗するべく、女は日に日に厚着になっていく。
外は気まぐれで、嵐はたびたびやんだりもした。
しかし、これは嵐の前の静けさであるだけなのだと次の瞬間知るのである。
嵐はある男を境にして弱くも強くもなることに女は気づいた。
当の本人は、その時その時で居心地のよい方にいるためかいつも薄着だ。
女はその男を味方にするすべを知らない。
ただただ、女は耐え続けるのみだ。
自分以外の周りの人は、彼の作る境界線に沿って日々を過ごすことを覚えていった。
引っ越して3ヶ月がすぎたある日のことだった。
別の男がこの町を訪ねてきた。
薄着の男とその男の間には面識はなかったが、悠々とお互いの塀を飛び込むまでになった。
その男は、厚着の女に向って、なんでこっちにこないの?と問う。
(もうだめなのよ、これは、あの時チャンスを逃してしまったがために自分で招いた悲劇なの。もう耐えるしかないの、この嵐とはあと1年と半年の辛抱なんだから。)
しかし、気まぐれ嵐は、彼とともにやってくる。
女は媚を売る気はないとはじめこそ胸を張っていたが、まぶたは半分から上がらなくなり、手が紫になっていく…
そんな体を前に並々ならぬ恐怖感を覚えることになる。
ついに女は、薄着の男に気に入られている自分の友達を盾にし、手を丸めたまま境界線を踏んだ。