すでにもとの姿とはほど遠くなってしまったフィオナ、いや、自称クリスは血に染めたような紅い瞳でウィルを睨み付ける。睨み付ける、という表現とは少し違うかもしれない。そう思わせるのは、クリスの表情に浮かんだかすかな笑みによるものだろう。
恐怖と混乱で動けずにいるマリアをよそに、クリスは目蓋をおろした。その時。
キィィン
甲高い音波が鋭い痛みと共にウィルの耳奥にまで響いた。
その波は脳にまで押し寄せ、ウィルのバランス感覚を失わせた。
ぐらっ
両膝が地に着く。
(なんだよこれ…?!動けない…!!)
動けぬままのマリアはその光景を目の当たりにしていた。
クリスが目蓋をおろすと、筋張った羽を大きく広げ、摩擦と言っていいほどの速さではばたいたのだ。
そしてクリスは、消えた。はばたいたとたんに姿が見えなくなったのだ。その直後だ。ウィルが倒れたのは。
「あら?どうしたの?ひざま付いて。」
クリスの声が、上空から聞こえた。今までに感じたことのない重力が、頭を上げようとするウィルを押さえ付ける。