魔術と言うものは改めて凄いと実感した。
あれほど酷い怪我があっさりと軽傷の部類にまで回復したのだ。
医者は念のため入院していけ、と言ったが俺は手を振り病室を出た。
これ以上入院患者を増やしてもあちら様が大変になるだけだからな。
病室を出ると真っ暗な廊下がのびていた。
電線が切れているのか、もうとっくに明かりが点く時刻だと言うのに廊下は一切の光を失っていた。
パタパタと廊下を歩く。
途中通りすぎた部屋からはランタンによる灯りが漏れていた。
「…」
屋上…。
行こう…。
ふと、そんな考えが頭をよぎった。
会わなきゃ…。
あの人に…。
俺は屋上の階段を目指して歩き始めた。
「…」
階段を上りきると小さな小部屋があった。
そこから屋上に出られる扉に手を掛ける。
カチャリと開く音がすると共に扉が開いた。
そこは無限の星空が瞬いていた。
眩しいほどに輝く世界。
空だけを見ればこんなにも美しいのに…。
「――やっぱり来ましたね、慎弥さん…」
屋上には先客が居た。
長い髪を靡かせながらその人は地を眺めていた。
だが別に驚きはしなかった。それを分かっていて俺は来たからだ。