帰る前に必ずシャワーを浴びる
その音を聴きながら私は一人静かに泣く
私の匂いを全部洗い流す為の行為に思えて寂しくなる
蛇口を絞める音が聞こえると
あなたに気付かれない様に涙を拭いて笑顔を作る
あなたを困らせない為
髪を乾かした後
最後の煙草に火を点ける
その一本が終わればあなたは帰って行く
また私を一人残して
あなたがソファから立ち上がると胸が痛む
『もう帰るの?』とあなたのシャツの袖を掴んで甘えてみたい
靴を履いてドアに手をかけると瞼が熱くなる
『帰らないで』とあなたの背中に手を回し泣いてみたい
『またね』
そう言って微笑むあなたに
『またね』と笑顔で返した
ドアが閉まる音が心臓に響く
『次はいつ来てくれるの?』とあなたに聞いて
次の約束を作りたかった
それが出来たらまた頑張れるのに
あなたがこの部屋に何かを忘れて帰ってくれていれば
それを口実にまたあなたと会えるのに
必死に探してみても見付からない
完璧なあなたを恨んだりもする
残されたのはあなたがいたソファの温もりと消えていない煙草の煙と匂い
あなたが帰った後はすぐに部屋を暗くする
もう何も見たくない
一人の部屋が広く感じて恐くなる
次があるかも分からないあなたとの関係がいつでも私を苦しめる
それでも愛している
毛布に包まり肩を埋めて必死で目を閉じる
これ以上泣かない様に
さっきまで此処にいたあなたを思い出さない様に
不安を掻き消す様に