30分も経った頃
あれ、と夏美が口を開いた。
「あれ、〜ここさっき通ったよぉ。
……もぉ道わかるんじゃないの?」
ギクッとしたように、冬樹が足を止める。
夜は更に濃くなり、雨はなおも降り続ける。
今ここにいるのは、道を知らない二人。
「……わかんねぇ、じゃあこれって俗にいう遭難? マヂ最悪ぅ」
「迷い込んでるね、恋の迷宮に……。」
ポツリ、と夏美が零す。
その声は、雨の音に消されて意味までは冬樹には通らなかったけど。
「え!?どぉいうコト?」
「イャっ、別になんでもないよ」
慌てて、夏美は否定の意味の篭った動作を取る。
ならいいけど、と応え冬樹は、どこか頼りない足取りで進んでいく。
――沈黙の時間が流れる。