パラス王立図書館を出発してから間もない頃、タクトたちは広い草原に出ていた。肌に触れる風と風に揺れる草木がとても心地よかった。
「気持ち良い草原ねー」
パールは大きな背伸びをひとつした。
「こんなに広い草原だと広い範囲を見渡せるからムシにも襲われないな」
ウェドは自慢のハンマーを見つめながら呟いた。
「そうだ。せっかくこんなに気持ち良い場所にいるんだから・・・」
タクトは言いながら地面に大の字に寝転がった。寝転ぶとさらに風の気持ち良さが肌に染みた。タクトはなるべくウェイトのことについて考えることを避けていた。こうして寝転んだのもそのためだ。
「本当だ。気持ちいいー」
パールもタクトの横に寝転び、またひとつ伸びをした。
「ここで休憩するのか?」
ウェドもタクトの横に自分の腕を枕がわりにして寝転んだ。
「何してるんですか。まだまだ、町は先ですよ」
フラットが呆れたような顔で寝転んだ三人を見下ろした。
「フラットも寝転んでみなよ」
タクトは空を見つめながらフラットを促した。
フラットは仕方なくその場に寝転んだ。
「うわー、なんだか気持ち良いですね」
タクトは目を閉じた。この心地よさに身を委ねて、過去のことを洗い流すように。
タクトは目を開けた。眠ってしまっていたようだ。そして、驚いたことに外はすっかり夜になっていた。
「こんなに長く眠っていたのか・・・」
「やっと起きたのね」
隣にパールが寝転んでいた。ウェドとフラットはまだ眠っていた。
「みんな眠っちゃってたから起こすと悪いと思って放っておいたの」
タクトは黙って暗くなった空を仰ぎ続けていた。
「タクト・・・そのー・・・ウェイトの言ってた。あなたがパラスを憎んでいるって本当なの?」
「そんなわけないだろ」そう言って欲しかった。
「さぁ、分からない」
物静かに答えた。
「自分でもよく分からないんだ」
「あなたとパラスの間に何があったの?」
今まで空を仰いでいたパールがタクトの方に向き直った。
「話したところで過去はもう変わらないものさ」
タクトは勢いよく立ち上がった。
「さぁ!そろそろ出発しよう!」
タクトの大声にウェドとフラットも目を覚ました。
二人は起こされたことに対しての不服の声をタクトにぶつけていた。
パールはこれ以上聞くことを諦めた。