3-? 初夏の路
拓和はまた駄々をこねていた。
『嫌だ!!まだ帰りたくない!!』
『何言ってるの!!もう日が暮れるでしょう!』
粋乃がこの駄々っ子を厳しく叱った。しかし,
『帰るもんか!!師匠のそばにいるんだ!!』
拓和は純の袖を掴み,離れようとしない。
純は嬉しいやら粋乃に申し訳ないやらで,複雑な心持ちになった。
『拓和,今日はもう家に帰りましょう。お姉さんさんを困らせては駄目です。それにここら辺は,暗くなると幽霊がでるんですよ。』
勿論,拓和を帰す為の口実である。
幽霊。この単語を聞いて拓和の顔色が変わった。
『幽霊は,嫌いだ‥』
純の袖を掴んでいた手が緩んだ。
『じゃあ今日は家に帰る事です。幽霊には,拓和が帰るまで姿を見せないよう,よく言っておきますから。』
『本当?』
幽霊と聞いて青ざめた顔が純を見上げた。
『本当です。
さぁ,早く帰りなさい。』
純は,拓和の背中を押した。
『分かった。帰る‥。
でも,絶対にまた来るからね!!』
拓和は粋乃に手を引かれて,まだスッキリしない面持ちで純の部屋を出ていった。
その時,粋乃は純に軽くお辞儀し,
『では,いずれ‥。』
と言葉を残した。
いずれとは何の事なのか純が考えている間,
手を繋いだ姉弟の影は,一番星の光る,初夏の道を歩いていた。
●○続く○●