帰って来た母さん(後)

ぐうりんぼ  2009-01-29投稿
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 家では、親父がテレビを観ている。

 親父の奴、俺の顔見るなり、変な質問をした。

「どこかに寄って来たのか? 随分と遅かったじゃないか?」

「俺は父さんに電話した後、タクシーでまっすぐ帰って来ただけだけど」

「それにしちゃあ、遅いじゃないか」

「遅くないよ。病院を出て家に着くまでの時間は約15分。結構、速いハズだよ」

「ふーん、そうかァ」

「どうかしたの?
 親父、変な事を訊くけど」

「お前が母さんより、帰って来るのが遅いから気になってたんだよ」

「訳わかんねえよ!
 集中治療室にいる母さんが、何でウチに帰って来れるんだよ!?
 脳がやられて植物人間みたいになって人が、1人で歩いて来られるハズないだろう!?
 父さん、夢でも見てるんじゃないのッ!?」

 すると…

「祐介、何をゴチャゴチャ騒いでいるの?」 

「え?」

 俺は思わず、耳を疑った。

 背筋がゾォーッと寒くなる。

 今の女の声…

 母さんの声だ。

 しかも、誰もいないハズの風呂場から聞こえて来る。

 ザバーッ!

 ガタゴトン!

 湯船から上がった時のお湯の音と…

 浴槽のフタを閉める音だ!

「祐介ゴメーン!
 バスタオル持って来て!」

 母さんからの呼びかけに俺は震えながら返事した。

「ま、待ってて! すぐ持って来るから!」 

 電話が鳴った。

「俺が出る」


 玄関の電話口に出る親父。

 俺はバスタオル持って、風呂場へ行ってみた。

「!?」

 脱衣場に来た時、俺は我が眼を疑った。

 そこに、母さんの裸体の後ろ姿があったからだ。

「か、母さん…、持って来たよ」

「ゴメンゴメン! 前のタオルが濡れていたから」

 俺の方にゆっくり振り向いた母さん。

「う、ウワーッ!」

 俺は思わず、悲鳴を上げた。

「いやね! 大きな声出してから!」

 驚く母さん。

 顔中、血だらけで眼を大きく見開いていた。

 俺は怖くなって、その場から逃げ出した。

 親父の所へ飛んで行く。

 親父は俺の顔見て、暗い表情で言った。

「母さん、5分前に…
 息を、引き取ったらしい」


終わり



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