家では、親父がテレビを観ている。
親父の奴、俺の顔見るなり、変な質問をした。
「どこかに寄って来たのか? 随分と遅かったじゃないか?」
「俺は父さんに電話した後、タクシーでまっすぐ帰って来ただけだけど」
「それにしちゃあ、遅いじゃないか」
「遅くないよ。病院を出て家に着くまでの時間は約15分。結構、速いハズだよ」
「ふーん、そうかァ」
「どうかしたの?
親父、変な事を訊くけど」
「お前が母さんより、帰って来るのが遅いから気になってたんだよ」
「訳わかんねえよ!
集中治療室にいる母さんが、何でウチに帰って来れるんだよ!?
脳がやられて植物人間みたいになって人が、1人で歩いて来られるハズないだろう!?
父さん、夢でも見てるんじゃないのッ!?」
すると…
「祐介、何をゴチャゴチャ騒いでいるの?」
「え?」
俺は思わず、耳を疑った。
背筋がゾォーッと寒くなる。
今の女の声…
母さんの声だ。
しかも、誰もいないハズの風呂場から聞こえて来る。
ザバーッ!
ガタゴトン!
湯船から上がった時のお湯の音と…
浴槽のフタを閉める音だ!
「祐介ゴメーン!
バスタオル持って来て!」
母さんからの呼びかけに俺は震えながら返事した。
「ま、待ってて! すぐ持って来るから!」
電話が鳴った。
「俺が出る」
玄関の電話口に出る親父。
俺はバスタオル持って、風呂場へ行ってみた。
「!?」
脱衣場に来た時、俺は我が眼を疑った。
そこに、母さんの裸体の後ろ姿があったからだ。
「か、母さん…、持って来たよ」
「ゴメンゴメン! 前のタオルが濡れていたから」
俺の方にゆっくり振り向いた母さん。
「う、ウワーッ!」
俺は思わず、悲鳴を上げた。
「いやね! 大きな声出してから!」
驚く母さん。
顔中、血だらけで眼を大きく見開いていた。
俺は怖くなって、その場から逃げ出した。
親父の所へ飛んで行く。
親父は俺の顔見て、暗い表情で言った。
「母さん、5分前に…
息を、引き取ったらしい」
終わり