昔からシヴァはガザの格好の獲物だった。
貧しい村の中でもとりわけ貧しい小作人の子。
シヴァは下腹に力をこめた。
これは幼い頃からの経験で編み出したシヴァなりの怒りを静める方法だ。
その様子をガザはにやにやと腕を組んで見ている。
まだ我慢できる。大丈夫。ここでガザを殴ったりしたら、それこそ親に迷惑がかかる。
ガザに思う存分言葉で嬲らせればいい。それで飽きてどこかへ行けばそれが一番いいのだ。
「なぁ、シヴァ。もうひとつ、聞きたいことがあるんだ」
だが、そんなシヴァの思惑も次のガザの一言によって粉々に粉砕された。
「お前って本当の親父がわからないんだって?」
目の前が真っ赤になった。
両親と自分だけでなく、その間に流れる感情や血まで愚弄されたのだ。
その赤が怒りであるとわかったのは、目の前で鼻血を吹いて倒れているガザを見た時である。
じんじんと震える拳に驚愕する。
「おっ……俺に逆らったなシヴァ!! 親父に言いつけてやる! それでお前の親父から土地を取り上げてやる!」
シヴァはゆっくりと絶望が自らを侵食してくのを感じた。
もう終わりだ。
ガザを怒らせたらエグロンでは生きていけない。
シヴァの呆然とした表情に、ガザは残酷な喜びを見出したようだった。
「お前のとこのしみったれた土地でもな、俺は簡単に取り上げることができるんだ!! せいぜい後悔しろシヴァ、このビンボー人が! 俺を傷つけた罪は重いんだよ!! ハーハッハハ――」
「何が可笑しいのかしら、そこのあなた」
追い立てるように高笑いをしていたガザを遮って声を立てた恐れ知らずがいた。
シヴァは顔を上げる。
そして、思わず恐怖で足が竦んだ。
「魔女……?」