4-? 夏の訪問者
純は1人,
どうしようもない不安に襲われていた。孤独だ。
子供達と,この場所で書道をしていた頃が夢のようだ。
ーこのまま1人孤独に死んで行くのかな
桜並木の墓の事を思い出した。手が震える。これも病のせいなのかわからない。
治療をする事を望まなかった純の体はめっきり痩せていた。
衰えてゆくのが自分でも分かる。
食事も喉を通らない。
京太郎は困った。
自分には何もする事が出来ない。
しかし純はいつも笑顔を見せて,
『兄さんは,
こうして私の話し相手になってくれているだけで充分ですよ。』
と言う。
笑顔を見ていると,
純が病で死ぬ事など京太郎は忘れてしまいそうになる。
ー 何故純なのだ。
京太郎はこの現実を呪った。
†
午後の事である。純はまたいつもの様に横になっていた。
日の強く差し込む庭で物音がする。
ー 猫でも入り込んだかな?
純は起き上がり庭へ続く襖をあけた。その時熱い空気が流れ込み純は目眩をおぼえた。
『あなたは‥』
自分の目を疑った。
そこに居たのは猫ではなく,あの粋乃だったのだ。
『しっ!拓和から隠れて来たのです。
見つかるとまた面倒なんですもの。』
粋乃はいたずらっ子のような表情を浮かべた。
ー この前の[いずれ]とはこの事か。
純の悩みの1つが今解決した。
しかし,どの様な隠れ方をしたのか,粋乃の髪は乱れ,衣服は泥で汚れている。
純は思わず笑った。こんなに笑ったのは久しぶりかもしれない。
『面白い方ですねぇあなたは。』
『笑うだなんて酷いですわ。大変だったんですよ。拓和から隠れるのは。』
だが粋乃もつられて笑ってしまった。
自分のしている事が馬鹿らしく思えてきたのだ。
純は,
『とりあえず,中へどうぞ。外は暑いでしょう。』
と庭から案内した。
●○続く○●